タイトル【小池邦人のプログラミング日記】2000/5/26<WWDC 2000 セッションに思う>カテゴリー小池邦人のプログラミング日記
作成日2000/5/27 9:10:24作成者小池邦人
今年も無事にWWDCが終了しました。参加者は、給食付きの5時間授業を毎日受けているようなものでして、見た目よりしんどい5日間なのです。今回は、Jobsの基調講演以外は機密扱いとなってしまいましたので、各セッションの内容を詳しくご紹介できなくて残念です。Jobsが基調講演で「Mac OS Xは7月にパブリックβ」とさりげなく(なんの抑揚もなく)言い換えた時には、一瞬会場全体が狐につままれた状態になりました。でも「こちらの方が妥当なスケジュールだよなぁ」と言うのが、会場で会ったプログラマー仲間の一致した意見です。なにせ、Carbon化の目玉となるCarbonLib 1.1は未だd版ですし、周辺機器のドライバ開発についても、会場では「今から戦いは始まるのだ!」という雄叫びが上がっていましたので...(笑)ただ、Carbon化されたInternet Explorer 5が、Mac OS X上でちゃんと動いている姿は(基調講演でデモされた)同業者に愛(?)と勇気と希望を与えたことも事実です。そして、私が参加したセッションのデモでは、Mac OS Xのストール(ハングアップ)は一度も起きなかったことを付け加えておきたいと思います。

WWDCでは、特定のテクノロジーに関連した1時間半のセッションが、6会場で並行して行われました。例えば「Mac OS X Overview」とか「OpenGL Tech.Intro」といったテーマ別にです。今年のWWDC会期中に行われたセッションは全部で130以上! セッション会場がコンベンションセンターだけでは足りず、道を挟んだ隣のサンノゼ市民会館を間借りするほど内容が充実していました。通常、最終日の午後にはセッションはないのですが、今年はそこまでもぎっしりとスケジュールが詰まっていました。それだけ、Appleからデベロッパーへ提供すべき技術内容が多岐に渡った(濃かった)と判断できます。ただし、今年はセッション数が多すぎて、いつもは会期の後半に用意されるセッションの再演(一度行ったセッションを再度行うこと)が皆無で、参加をあきらめたセッションが例年より多く、消化不良の感もなきにしもあらずでした。同じような内容や、2つを1つにまとめても時間的に不都合のないセッションも多々あったので(20分で終了してしまうとか...)来年はもっとシェイプアップして、ぜひ再演セッションを復活させてもらいたいと思います。

WWDCでは、Appleの一押(花形)テクノロジーに関するセッションが最も多く組まれ、一番広い会場を占有するのが伝統となっています。「Mac OS 7、8、9」「Copland」「Rhapsody」「QuickTime」「OpenDoc」「AppleScript」「QuickDraw 3D」「QuickDraw GX」などが歴代の蒼々たる花形です。まあ、そのうちかなりの割合が消滅してしまったのはご愛敬なのですが...(笑)、当然、今年の花形は「Mac OS X」です。全セッションの半分以上は、Mac OS Xテクノロジーに関するものでした。なにせ、Java環境も含めてアプリの動作環境だけで4つもあるOSですから、自然とセッション数も多くなります。続いて多かったのが「WebObjects」に関するセッションでした。こちらの充実ぶりには少々驚いたのですが(QuickTime関連よりずっと多かった)、つまるところ、AppleはWebObjectsを次世代のキラーアプリに育てようと目論んでいるようです。(Jobsの基調講演でも値下げの話があった)ただし、WebObjectsがiMovieのように即座に華やかな表舞台に登場できるかと言えば、それは難しいような気もします。まずはMac OS Xの成功が第一条件、そして簡易版を開発するなどして幅広くユーザにアピールすといった、Apple側のさらなる工夫が必要ではないでしょうか?

さて、私が今回一番注目(参加)したのは、「Interface Builder」や「Project Builder」といった「Mac OS Xのソフト開発環境」に関連するセッションでした。今までのApple純正の開発環境と言えば、太古から脈々と続くMPWと、進化が止まったResEditぐらいです。(HyperCardもありましたが..)、Appleは、ここへ来てやっと「Macintoshは何かを創造するための道具」「それを生かす道具を創造するための優秀な道具が不可欠」ということに気づいてくれたようです。純正開発環境を整備することは、教育関係などにMacintoshとMac OS Xを拡販するためにも大変重要な戦略でしょう。今回のWWDCに参加して、Apple側にこうした強い意欲を感じ取ることができたのは、大きな収穫でした。Mac OS Xは、派手なAquaの登場により色々と物議を呼びましたが、Javaの本格的なサポートを含めた強力な開発環境が装備されれば、我々にとって非常に面白い道具になる予感がしています。
関連リンクオッティモ