タイトル小池邦人のプログラミング日記》2001/5/26<Mac OS X v10.0 ファーストインプレッション>カテゴリーMac OS X, 小池邦人のプログラミング日記
作成日2001/3/28 14:11:17作成者小池邦人
今回は、お約束通り、3月24日に正式に発表された「Mac OS X v10.0」の第一印象を述べてみたいと思います。

まずは、とにかくMac OS X正式版の販売までこぎつけた、Apple社のすべての開発メンバーとサポートスタッフに大きな拍手を送りたいと思います。一般MacユーザのMac OS Xとの関わりはパブリックβ版からですが、我々デベロッパーは、Rhapsody時代から数えると7〜8回プレビュー版の評価をしてきています。その度に「ぐわ〜、リソースが、リソースが...!」「あちゃぁ、拡張子が、拡張子が...!」「どひゃぁ、Finderが、Finderが...!」と、悪夢と恐怖のダンジョンをさまよい歩かされてきたわけです。ちまたでは「Macらしくないゾ」と陰口をたたかれているMac OS Xなのですが、「よくここまでMacらしくなった(感涙)」というのが、私の正直な感想でもあります(笑)。

Apple社は、Mac OS X本体のみの開発だけでなく、ゴールを見据えた周辺技術の開発にも早くから取り組んできました。Mac OS Xに親和性の高いハードウェアの開発、同じく親和性の高いボリュームフォーマットへの切り替え、Classic環境でパフォーマンスを出すためのMac OS 9.xの度重なる改良、InterfaceBuilderやProjectBuilderなどのツールの新規開発、そしてソフトの移植を容易にするためのCarbonフレームワークの導入などなど...。Mac OS Xへと向かうメインストリートの裏側では、想像以上に多くの英知と努力が結集されていると思われます。特に、Carbonフレームワークの導入決断こそがMac OS Xを発売まで導いた大きな要因でしょう。いつもは、牛歩のような開発ペースに文句を言っている私ですが(笑)今日だけは、CarbonLib開発メンバーにも大きな拍手を送りたいと思います。みなさん、拍手!拍手!(明日から、また叩くけど...)

少々前置きが長くなりましたが、Mac OS X正式版の話しに戻りたいと思います。実は、ADCのPremier&Selectメンバーには、正式版発売の1週間ぐらい前に「Mac OS X Release Candidate」なるバージョンが送られて来ました。「正式版は、このバージョンよりも多少はバグが取れているかな?」と淡い期待を抱いていたのですが、両者のビルド番号はまったく同じ、見事に期待を裏切られました(涙)。まあ、発送日が数日しか違わないわけですから、当然と言えば当然でしょう。できれば1ヶ月ぐらい前に、このレベルのバージョンが、Mac OS X対応に追われる周辺機器やソフトのデベロッパーの元へ届いていたら、発表時の対応にもっと余裕ができたのにと悔やまれます。まあ、今となっては詮無いことなのですが...。

さて、とりあえずMac OS Xを自分のマシンにインストールして数日使ってみました。まず最初にチェックしたのがOSのパフォーマンスです。Finderの操作感は、パブリックβ版と比べれば、かなり軽快になっています。と言うか、ブリックβ版がひどすぎたわけで、やっと許容範囲に収まったというところでしょうか?ファイルコピーや、ネットワークでのデータ転送速度もまずまずのようです。しかし、Finderの表示形式を「リスト」に切り替えた時のウィンドウの拡大縮小や、大量のアイコンのドラッグ&ドロップ、Nativeアプリケーションの起動速度などなど、まだまだパフォーマンスの改善が必要な箇所が見受けられます。特に、日本語表示にCPUパワーを取られているような気がしてなりません。「あ〜、英語圏の人はいいなぁ」と、System 6から7への移行の時にも感じたことを思い出してしまいました(涙)。QuickTimeにしても、やっとシネサイズのMovieが途中でひっかかることなく再生できるようになりました。しかし、複数のMovieを同時再生してみると、同マシンのMac OS 9.1環境での再生よりもパフォーマンスが出ていません。(まあ、プロセス割り振りの仕組みが違うので単純には比較できませんが...)このように、ユーザの体感速度にもろ反映する箇所については、早急なパフォーマンスの改善が必要でしょう。

それと比較して、パフォーマンスの改善が目立つのは、Classic環境でのアプリケーション動作速度です。Classic環境への切り替え設定や、FiinderからのApple Eventの転送、NaitiveアプリケーションとのCut&PasteやDrag&Dropによるデータの受け渡しなどなど、まだまだ多くのバグが残っているようです。しかし、パブリックβ版と比べれば間違いなく実用レベルになりました。Classic環境のパフォーマンスが良いおかげで、Mac OS X へ一気に移行してしまおうと考えるユーザも増えるかもしれません。ところで、これからのMac OS Xのパフォーマンスの鍵は、マルチプロセッサーが握っているような気がしています。手元にDual CPUのPowerMac G4が無いのでパフォーマンスを確認できないのが残念ですが、ぜひ一度詳しいチェックをしてみたいと思っています。Mac OS Xの登場により、速いだけでOKの世界から、馬力に余裕がなければダメな世界へと転換が起これば面白いでしょうね。やたら電圧とロックを上げるだけの「恐竜的CPU進化」が、コアに2CPUや4CPUを内蔵した「ほ乳類的CPU進化」へと移行することを切に望みたいと思います。

新しいOSの機能評価をしている場合には、遭遇したトラブルが「バグなのか?」「未実装なのか?」「仕様の不備なのか?」を判断する必要があります。以前のパブリックβ版では、これらが渾然一体となっており、現象をアップルへフィードバックしようにも、どう判断して良いのか不可能なケースがありました。しかし、今回のバージョンでは、その切り分けが比較的容易であるような気がします。今回のバージョンが、パブリックβ版からある程度は洗練されたという証拠でしょう。私も、さっそくアップルのMac OS Xサイトへ30項目ぐらいフィードバックを行いました。その内訳は「バグの指摘」が5割、「未実装の指摘」が3割、残りが「仕様の不備の指摘」といった感じです。やはり現状のMac OS 9.1環境をMc OS Xへ完全移植し、毎日のルーチンワークで使ってみないと、細かなバグを発見することは難しいようです。みなさんも何らかのバグに遭遇したら、迷わず以下のアップルサイトへフィードバックしてください。よろしくお願い致します。

◇Mac OS X:フィードバック
http://survey.apple.co.jp/macosx/

今回のMac OS Xのバージョンでは、いくつかの機能の実装がペンディングされていることが指摘されています。例えば、Finder表示オプションのリスト表示項目の設定には「ラベル」が存在しますが、実際にラベルを設定する方法が無いといった具合です。ちまたでは、DVDの再生やCD-R、DVDへの書き込みなどが「置き忘れ」の代表選手として取り上げられていますが、それ以外にも重要な置き忘れが存在します。利用者から一番声が多いのは、「作業環境マネージャ」と「アピアランスマネージャ」の中途半端な実装についてです。確かに、両マネージャとも実作業に密に関係していますので、最低でもMac OS 9.1レベルは搭載しておいてもらわないと困ると言うのが、大多数のユーザの正直な意見でしょう。まあ「未実装ではなく仕様だ!」と言われると、もっと困ってしまうのですが...。

Apple社には、ユーザからフィードバックされたバグやパフォーマンス問題を、なるべく短期間でフィックスする責任があります。これはMac OS Xの「品質」の問題なのですから、評判を悪くしないためにも早期対応が急務です。「未実装機能」に関しては、そんなに短い期間で対処できるとは思えませんので、5月のWWDC 2001や7月のMacWorld Expo/New Yorkに合わせてタイミングよく補充をしてもらいたいものです。そして最後の「仕様の不備」については、そういう仕様にした「コンセプト」をユーザに明示し、それでもなをユーザからの改善フィードバックが多ければ、仕様の撤回や改善を謙虚に実行する懐の深さを見せて欲しいところです。私は、ソフト開発とは、団子を作るようにどんどん大きくして行くものではなく、吟醸作りで米を研ぐ作業に似ていると感じています。余分な箇所を研いで洗練させていくのですが、その加減を間違えると米が割れて使いものにならなくなります。実に微妙で困難な作業です。

我々デベロッパーは、毎年5月にUSAのサンノゼで開催されるWWDCに参加しています。このカンファレンスでは、いつもは開発に携わっているApple社の技術者が、デベロッパーに対して直接セッションを行います。このカンファレンス、JobsがAppleに復帰する前と後では大きく変わった点がひとつあります。それは、セッションを指揮する技術者の顔ぶれが大きく変化しなくなったことです。以前は、社内のメンバーの移動が激しく、毎年違うメンバーが登場しては消えて行きました。何やら一年おきに、開発者の「リセット」を実行しているようで(CEOもそうか)、参加者側にも不信感と不安感が漂っていました。つまり、Apple社とはそう言う会社だったわけです。最近のWWDCでは、以前はよくあった「派手さ」だけを追求したデモもなくなり、すっかり「地に足のついた」カンファレンスに生まれ変わっています。

今年のWWDCは、例年になく内容の濃いものになるでしょう。Mac OS Xの次なる飛躍をかいま見られるカンファレンスになればと、心待ちにしています。
[小池邦人/オッティモ]
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