このテキストは、日刊デジタルクリエイターズに寄稿したものです。


■Workforce of a Freelance(11)
FileMakerで旅行して本を出して

2005/2/28配信号/新居雅行


ここ1ヶ月の間に、熊本と旭川に旅行をした。その共通点と言えば、ラーメン? はずれてはいないが、実はFileMakerなのである。FileMakerのユーザグループとしてFM-Tokyoは長年に渡って活発な活動をしているが、1月にFM-Kyushu、そして2月にはFM-Hokkaidoが1回目の勉強会(ミーティング)をそれぞれ熊本と旭川で開催させたのである。いずれにも呼んでいただいたので、西へ北へと行ってきた。その間、2月にはFM-Tokyoの定例ミーティングもあり、なんだか毎週のようにFileMakerのユーザグループの会合があった。さらにその間、久々に書籍をしかもFileMakerネタのものを世の中に出すことができた。

FM-TokyoFM-KyushuFM-Hokkaido

●交流が次のステップを生み出す

FileMakerはユーザとデベロッパの境目が曖昧だ。自分で作って使う人が多いので、デベロッパでもありユーザでもあるという人が多い。その意味では特別なアプリケーションなのかもしれないが、利害関係というものも通常のシステム開発分野と違う気がする。SI業者さんって自分のところで情報を溜め込みクローズにして競争力を持つというイメージが強い。しかしFileMakerの世界はむしろ排他的にならない方が利益を生む素地を作り出している。ストイックに追求するのもいいけど、いろんな人と知り合って語り合うことで、確実に次のステップが見えてくるような世界なのだ。

もちろん、そういった増幅を生み出すコミュニティとして、FM-Tokyoが機能しているという点も見逃せない。そして、FM-Tokyoの成功と雰囲気を知った地方の人は、同じようなコミュニティを自分の地元で展開しようと奔走することになる。東京からもいろいろなバックアップを行っているし、FM-Tokyoの運営メンバーはオフ会幹事の高岡さんをはじめとして、実施へのノウハウの提供など支援は惜しんでいない。ちなみに、高岡さんとは、熊本、旭川いずれも現地でお会いした。

筆者自身も、何かネタを見つけてはそれをなるべく「発表する」という形でみんなで共有し、さらにみんながどんなことを欲しているのかといったことを得る機会にもさせてもらっている。そんな経緯もあって、熊本も旭川にも呼んでもらえたと認識している。そして、それらの土地で新しい仲間に出会って、また何かが広がって行くのである。それが面白いのだ。

●なんだかんだで地方は二の次がこの国

こうしたコミュニティは、均一には展開されない。ある場所で組み立てるとしたら、場所、構成する人たちといった要因があり、同じような集まりとはならないものだ。FM-KyushuとFM-Hokkaidoはどちらかと言えばかなり異なる形態になった。いずれも、1回目としては成功だと言えるだろう。

FM-Kyushuは熊本で開催されたが、組織運営にはMacのユーザグループ、特に熊本と鹿児島のUGや福岡の関係者が動いたという点で、大きな人数の動員ができたのではないだろうか。熊本で開催するのは、九州の中心であることが大きな理由だそうだが、場所を確保してイベントを開催可能なUGが熊本にあったことも大きな要因のようだ。そして、鹿児島と福岡のユーザがそれぞれ事例を発表した。参加者の中にはFileMakerを知らない人もいたようだが、どちらかと言えばFileMakerを良く知っている人の集まりとなったのである。筆者は運営側の依頼を受けて、FX.phpの紹介をさせてもらったが、それくらいのコアな人たちが集まっていたという感じである。MacのユーザグループがベースだったのでMacユーザが多かったのだが、さらにWindowsユーザが集まればかなり盛り上がるのではないかと思われる。

旭川で行われたFM-Hokkaido in Asahikawaは、北海道のあちこちから人が集まったわけではなく、旭川周辺のユーザが集まった。そのため、こじんまりとした集まりになったが、会場や運営者の流れで、ビジネス展開はしているもののFileMakerを知らない人もまずまず含まれていたのが目立つとつころだった。そして、そちらも依頼により、筆者はFileMakerの初歩的なことや、なにが便利なのかといった話をした。具体的に見せながらの紹介といったプレゼンテーションをしたのだが、多くの人が熱心に質問を発すると言った展開になったのである。むしろ、FileMakerをもっと地元の人に知ってもらおうという意図が強く働いたというところだ。

いずれの会合も終了後は飲み会となり、大いに盛り上がり、「次回もやろう」という話になっていた。(FM-Kyushuは2回目のミーティングを3月20日に佐賀で開催する。)とにかく、自分たちのペースで続けてほしいと感じる。東京ではいろいろなイベントがあるが、ほんとに地方はそういう機会が少ない。インターネットが発達したら…などと戯れ言を言うのはたいがいは都会の人間だ。コンセプトを知っているふりをして自分では何もしない。以前にもある業界団体で、ほとんど東京でしかやっていないセミナーをビデオやストリーミングを低クオリティでもいいから地方の人向けに提供すべきだと提案したが、一蹴されたこともある。一事が万事とすれば、どうりで東京一極集中するわけだ。

しかし、いきなりストリーミングをする前にやることがある。大小さまざまなコミュニティが各地で形成されて、それらが連携をする基盤がネットワークなのである。まずは、人と出会うことつまりミーティングすることから始まると思う。

●FileMakerの難しいところを解説した本

一方で筆者自身のこととなるが、久しぶりに書籍を出版した。書籍を出すのも久しぶりという気がするが、FileMakerの書籍は7年ぶりになる。「リレーションで極めるファイルメーカー7」というタイトルで、FileMaker 7での新機能である本格的なリレーショナルデータベースの機能を、かなり噛み砕いて紹介したものだ。ラトルズからの発売で、¥2,800である。デジクリでは先日の茂田さんのコーナーでも紹介いただいた。

良くも悪くも、FileMakerは気楽にデータベースを作れてしまう。それがいい面でもあるのだが、1テーブルで複雑なデータベースを作り、あるところでどうしようもなくなるという例はよく聞く話だ。データを柔軟に記述するのがリレーショナルデータベースという手法ではあるが、結果は確かにすばらしいけど、そのときのテーブルやフィールドをどのように組み立てるかといった設計が難しいのである。数学的な側面もあり、また論理的にきちんと検討しないこともあって、決して安直にこなせる世界ではない。しかし、それを知ることによって、FileMakerで作るデータベースのクオリティは明らかに高くなる。場当たり的にやってうまくこなしている人もいるかもしれないが、しっかり勉強したい人は、ぜひとも書籍を手にしてもらいたい。

もっとも、リレーショナルデータベースをFileMakerで勉強するということもあるので、難しい集合理論を書籍で展開しているわけではない。実例と、実際に画面で見えるような展開を考え、紙面でリレーショナルデータベースの動きを追えることを考えた。数学的なことを知らなくても、なぜリレーショナルデータベースが実用的なのかを解説している。また、関連する機能でFileMakerに用意されたさまざまなやり方も紹介している。ガチガチにリレーショナルデータベースではないところもやはりFileMakerのユニークなところであり、分かりやすいという雰囲気を醸し出している。FileMakerから見たリレーショナルデータベースの世界を紹介したかったということだ。

この書籍、実はある出版社で出版することになっていたのだが、すべての原稿を書き上げた上で没になった。ちなみに、下請代金支払遅延等防止法があるだろうと思われるかもしれないが、この種の原稿は他の出版社に持ち込むことで出版が可能なので原稿依頼は対象外なのである。いずれにしも、企画を救い上げていただいたラトルズ社には激しく感謝したい。確かに売れない本かもしれないが、こういう書籍は必要であることを認識し、それをビジネスにつなげる積極性を持っている出版社が残念ながら限られているというのが実情だ。

初心者向けの情報だけでなく、技術的な内容や難しい内容こそ求められる情報であり、オライリーのような成功例もあるわけだが、日本の書店に並ぶ書籍の多くがどのような状況かはみなさんがよくご存知の通りだ。出版社側にも読者にも、そして筆者にも責任はあると言えるわけだが、前記の通り出版社側に何かを求めると言ってもどうも難しそうなので、期待するのは読者のみなさんの行動であると言えるだろう。


【にい・まさゆき】msyk@msyk.net

トレーナー、コンサルタント、デベロッパー、そしてライターと、あれこれこなすフリーランス。熊本行きでは山奥の温泉に一泊、旭川ではオホーツクまでバスで行った。残念ながら流氷で埋まった海は見られず、かけら程度しか見られなかった。現地でお世話になった方々に御礼を申し上げます。