2000年10月19日、パームコンピューティングは、東京の全日空ホテルで「Wireless Summit 2000」を開催し、Palmの世界でのオンラインサービスの開発者向けにサービスをアピールした。この日は1日かけてコンテンツプロバイダー向けの説明会となっていたが内容については機密扱いとなっている。しかしながら、午前中のキーノートセッションは報道機関に対して公開され、Palmのオンラインサービスの方向性や概要が公開された。まず、Palm, Inc.のCMOサジブ・チャヒル氏(Appleに在籍したこともある)によるPalm社の戦略が披露された。新機種のm100が個人ユーザの裾野を広げることになることや、市場シェアとして66%を得ており、これまで900万台を販売したことを紹介し、Palmが他社を圧倒するシェアを持つことをアピールした。続いて、ジャストシステム浮川和宣氏が登場し、日本語入力について折り畳み式のキーボードを取り出し(セッション後に日本でもキーボードは発売される予定があるといった話もあったが、USキーボードであるとのことだ)、Palm向けのインプットメソッドのATOK Pocketの紹介を行った。 Palm, Inc.のCOOであるバリーコトル氏が登場し、Palm.Netについての説明を行った。モバイルの普及条件として、パーソナリゼーションとローカライゼーションを挙げている。PIM機能に加えて、MyPalmポータル、アプリケーションによる付加価値といった構成要素を紹介した。MyPalmポータルによって、ユーザが独自に自分の参照するコンテンツの整理ができる機能などを紹介した。「Webクリッピング」は、Palmサイズの画面に表示するWebコンテンツで、HTMLで作成できる。オンライン販売や広告など、従来型のインターネットビジネスモデルをサポートする。販売支援など、エンタープライズアプリケーションの可能性も広げるものだとした。パームコンピューティング代表取締役のクレイグウィル氏が日本でのワイアレスコンテンツの展開を説明した。2001年の上半期にサービスを開始する。ビジネスユーザが中心と見ており、携帯電話でニーズを満たされないユーザをターゲットとする。リアルタイム性が必要なものやトランザクション系処理はサイトに直接アクセスするWebクリッピング、大きなデータのダウンロードはHotSync経由が適していると、既存機能との使いわけを提案する。さらに電話機能とデータ処理を高い次元で備えた次世代機についても、すでにノキア、モトローラ、京セラとともに開発作業に入っていることも紹介した。 そして、パームコンピューティングのデベロッパサポート矢内健治氏より、日本語版の説明があった。BizTech、駅前探検倶楽部などがサービスの提供を予定している。実際に稼動しているデモとして読売新聞のサービスが紹介された。iモード向けのサービスをPalm向けにしたもので、ニュース一覧からいろいろなニュースをジャンプして参照できるといったものだ。クリエイティブ・リンク(ワインガイドなどを提供)からは、開発のサンプルとしてレストランガイド(askU.com)が紹介された。利用者がレビューを書くコミュニティ型情報サイトだ。レストラインガイドでは、検索画面が出てきて評価レートとともにレストラン一覧が出てくるといったものだ。アーバス(ロケーションホスティングサービスを提供している)では、Palmを利用した位置情報の提供やシステム開発のサポートを行う予定だ。 なお、開発情報はwww.palmos-japan.comに情報をアップされる予定で、ツール類の取得にはソリューションンプロバイダ登録と、機密契約の締結が必要になる。今日は開発ツールのベータ版は配付を予定されていたが実現できなくなったことも告げられた。そして最後に、開発への積極的な参加を呼び掛けた。 日本でのPalmのネットワークサービスはDocomoのネットワークを利用する点がすでに公開されている。米国では8Kbpsのスピードなのに比べてより高速なネットワーク環境が提供できるとしているものの、日本でのネットワーク接続の価格体系などは何の発表もなかった。価格体系はユーザ層やユーザ行動に大きく影響するが、こうした情報がなければビジネスプランを立てることもできないと思ったベンダーも多かったことだろう。また、Webクリッピングサービスについてはiモードのような課金システムの整備を望む声がデモを行った人の口からも出るほどであったが、Palm側からはそれに関しては明確な約束や方針などは何も出されなかった。ネットワークサービスのカギを握るのはPalm自体の性能などはもちろんだが、魅力的なコンテンツを提供できるかどうかということにかかっている。iモードという先行するビジネスモデルがあるにも関わらず、収益モデルを開発者にこの時期に明確に提示できないのは大きな損失となるだろう。Palm市場はコアなマニア向け市場から、ビジネスフィールドへと変化している。開発者を鼓舞するためのイベントではあるものの、キーノートを聞く限りでは市場環境へのPalm社の取り組みに疑問を持った開発者もいただろう。 |