WWDC 2001がもうすぐ閉幕するという時間にこの記事は書いている。月曜の午前中にあったスティーブ・ジョブズ氏の講演の最初に「今年は新しいことは言わない」と話があり、アビー・テバニアン氏は「Mac OS Xが15年や20年は続く」と話した。今後新しいものがどんどん出てくるというよりも、Mac OS Xというプラットフォームで固めて、継続的なユーザ環境を提供するという姿勢は明確になった。今現在、サードパーティに対してはネイティブアプリケーションを作成してほしいというのが、アップルからのメッセージである。 WWDC 2001ではたくさんのセッションが開かれた。多くのセッションが新しいことを説明したわけではなく、すでに公開された内容を改めて説明するといったテイストのものが多かったようだ。その意味では、機密にすべき内容は少なかったようではある。これは、新しいことや変更されるという箇所はしばらくはほとんどないので、現状のMac OS Xの環境での開発をどんどんと進めてほしいというメッセージではないだろうか。従って、WWDCは新しいことを発表する場というよりも、勉強する場になったと言ってもいいだろう。基本的なことから詳細なことまでを含めて、ポイントをコンパクトにうまく説明されるので、具体的なことは後からドキュメントを見るとしても、概要と全体像はこうしたセッションだと効率的に伝わる。また、現状はドキュメントがだいぶんと揃ってきているということも言えるようになってきた。 昨年までのWWDCやあるいは日本であったデベロッパー向けのイベントでも、Carbonについて強調をしていたが、今現在、Carbonをプッシュする度合いはかなり減ってきていると感じる。それじゃあCocoaかというと、むしろCarbonではないものはCocoaであるという感じではない。Cocoaはむしろネイティブアプリケーションのアプリケーションフレームワークを中心としたユーザインタフェースや基本的なデータ処理を行うものである。その背後にはもちろん、コアOSもあるが、さまざまなサービスも存在する。そうした、CocoaをひっくるめたMac OS Xのネイティブ機能を使って開発をするというのが今現在の目標となっている。 その「ネイティブ」には、Carbonも入っている。アップルはCarbon環境に最適化することでもネイティブな動作をするように、開発に力を入れてきたのだ。つまり、Carbon Eventを使うことを含めて、保護メモリやマルチタスクといったMac OS Xのメリットを享受できるアプリケーションを作成できるのである。それも1つのネイティブ化の手法である。これまでは、既存のMac OS向けの開発者の引き留めもあって、Carbonを強く露出していたが、力点の移動があったことは明白に感じられた。基調講演で、Interface Builderを使ったデモを行ったということも、そうした傾向を示すものになっていると言えるだろう。 一方、ネイティブ環境の代表的なフレームワークはCocoaであることは言うまでもない。CocoaはObjective-CとJavaによる開発が可能となっている。もともとはObjective-Cで作られたフレームワークにJavaでの開発もできるようなラッピングをしているのであるが、昨年まではJavaの露出が強かった。セッションでのサンプルもJavaを使うことが多かった記憶がある。しかしながら、今現在、むしろObjetive-Cがデモなどで一般的に使われている。あるセッションで、聴講者がどっちを使っているかをたずねたところ、圧倒的にObjctive-Cであった。WebObjects 5が完全にJava化したのに対して、CocoaアプリケーションはObjective-Cがやはりメイン言語となっているのである。WebObjectsのJava化はCocoaにどう波及するかと思ったが、Java化という点は強くは波及しなかったと言えるだろう。現状では、Cocoa-Javaは不利な点がある。1つは起動時に明白に分かるパフォーマンスの違いがある。また、Cocoaフレームワーク以外のネイティブ機能使う場合、Objective-CならCのAPIは簡単に呼び出せるのに対して、Javaだといろいろ大変なのだ。こうしたことに加え、やはりCocoaデベロッパーは昔からNeXTやYellowBoxという環境向けに開発をしてきた人も多い。また、新たに開発をしたいという場合でも、Objective-CはC言語の拡張だけに、その気になれば難しいものでもないのだろう。結果的に動作上有利なObjective-Cに開発人口は集まるということになるわけだ。ただ、今後もJavaはサポートするとしている。 今回のWWDCでのいちばんのニュースは、開発ツールが充実したことだろう。CodeWarrior 7のEarly Access版でのMach-O対応を始め、Cocoa開発まで含めたMac OS Xのネイティブ開発ツールとして積極的に関与するという姿勢は伝わってくる。また、Javaの開発ツールとしてWindows環境ではもっとも有力なJBuilderのMac OS X版がついに出てきたことだ。Pure Java開発では、本格的なRAD機能やデータベースの連動なども含めて注目したいツールである。そして、待ちに待ったWebObjects 5とMac OS X Server 10.0の販売も開始された。ツールや環境については「これから」のものがけっこく新しく出そろったイベントでもあったのだ。 いずれにしても、環境は整ったと言えるし、状況的にしばらくは大きな変化はないと見てもよいだろう。今、Mac OS Xに対して様子見をしているデベロッパーは明らかに乗り遅れる。待つことでのメリットはほとんどない状況になったと言ってもよいだろう。こうしたことが明白になったというのが今回のWWDC 2001の大きな収穫だったと言えるかもしれない。 来年の2002年は5月6日〜10日に今年と同じくサンホセ・コンベンションセンターでの開催が予定されている模様だ。 |