2001年6月、日本でも、Mac OS X Server 10.0が正式に発売された。ある意味では地味なソフトでもあるのだが、一部、特に「サーバ管理」という作業の大変さや難しさを実感している人にとっては注目のソフトウエアだろう。サーバといってもいろいろな用途がある。たとえば、事務所や会社の中で、みんなで使うファイルを共通の場所においておくファイルサーバという使い方はかなりメジャーになっている。これがイントラネットの代表格とすると、一方でWebサイトやメールサーバなどといったインターネットのサーバという機能もある。もちろん、細かいところでは、各利用者ごとにいろいろと違っている。そうしたニーズに合わせた違いを、しっかりセットアップするというのが管理者の仕事になるわけだが、やっぱり専門職化しているのは言うまでもないし、アウトソーシングも行われているだろう。もっとも、職場内で知識のある人がいつの間にやら管理者になっていて、仕事が増えてうんざりという場合もあるのかもしれない。いずれにしても、サーバというのは、勝手に使っていいものではない。イントラネットならそのサイトでのニーズがあって、それをうまく組み込まないといけない。インターネットだと変な動きをするサーバをつないでしまうと、下手をするとそれだけで世界中に迷惑がかかるということにもつながってしまう。サーバ管理は、結局は人間とのやりとりまでが仕事に入ってしまい、気を使う仕事なのである。 良く知られているように、Windows 2000やLinux、FreeBSDといったOSがサーバとしてよく利用されている。それぞれの一長一短はさておき、こうした市場に、改めて、Mac OS X Serverが登場したわけだ。無償ソフトだけの世界ではないとは言え、AppleShareでのクライアント数が10に制限されるバージョンで59,800円という価格は、「高い」「いや、妥当だ」などと意見が分かるところである。むしろ、単に値段だけを見て、お金を払う人なんていないのじゃないかという意見を言う人もあるが、Mac OS X Serverはお金を払う価値があるものかどうかをどこで判断するかが問題である。UNIXのパワーと言ったとき、事実上フリーのLinuxなどがあるわけで、際立ったメリットとしてはちょっと薄い。他のサーバOSとの大きな違いは、やはり「管理のしやすさ」に尽きると言えるだろう。Linuxなどでも管理ツールなどはどんどんと発達してきてはいるが、究極的な違いは次の点ある。Linuxでの管理ツールはいろいろなデベロッパーによって提供されるもので、その意味では均一性がない。一方、Mac OS X Serverの中で動く各コンポーネントはもとはオープンソース系のものであっても、管理ツールや、あるいは管理環境をAppleによって整理されて提供されるのである。この点で、管理のしやすさがより高いと言えるかと思われる。もっとも、Linuxだといろいろな人の意見をもとに管理ツールがアップデートすることで、その意味ではかゆいところに手が届く管理ツールになるという期待は大きい。一方、Apple純正のツールしかないのなら、ある種の規格の範囲内での作業しかできないところに不満が出る可能性はある。結果的に、サーバOSも適材適所だと言ってしまうとそれまでだけど、標準的な環境をなるべく少ない手間で管理できるサーバとなると、やはりMac OS X Serverがいちばん最有力候補になりそうだ。特に、クライアントにMacintoshを使うようなイントラネットだとファイル共有の機能を中心に考えれば、Mac OS X Serverがいちばん問題なくスムーズに導入できるのではないだろうか。また、WebObjects 5やQuickTime Streming Serverという独特のサービスを標準で提供されるのもメリットと言えるだろう。
さて、Mac OS X Serverには、1999年にリリースされたVer.1.0やその後にG4に対応したVer.1.2が存在する。それらと同じ名前であるが、Mac OS X Server 10.0はまったく別物と思った方がよい。Mac OS X Server 10.0は、Mac OS X 10.0をベース作成されたサーバOSである。Mac OS X Server 1.0/1.2は、WebObjectsの開発環境としてなどの利用実績もあるが、従来のMac OSとは大きくかけ離れた操作体系や機能などで、筆者も含めて戸惑った方も多いだろう。だが、1.0/1.2の系列で10.0があるわけではないので、その点は理解しておいてもらいたい。 Mac OS X Server 10.0をインストールした結果は、最初はMac OS X 10.0と変わらないと思ってしまうだろう。デスクトップのグラフィックスが違うので、グレーっぽい画面ではあるものの、Dockもあり、Finderも起動するのでその意味では全然同じに思えるはずだ。そして、Finderをいろいろまずは使って気づくことであるが、その段階ではMac OS Xとまったく同じなのである。いったいどうやって管理をするのかと戸惑うかもしれないが、その前に、OSの機能を整理しておこう。
マルチユーザという言葉は文字通り複数のユーザということであるが、Mac OS Xのマルチユーザは多くの場面は1台のコンピュータを何人かで切り替えて使うという用途を想定していると言える。一方で、Mac OS X Serverの場合は、1台のサーバを複数のユーザが同時に何らかの処理に使う場合が一般的だ。もちろん、機能面ではそれらに限らないものの、OSの仕上がり的にはそのような機能になっているということである。Mac OS Xは、ファイルやフォルダ1つ1つにアクセス権の設定ができる。所有者、グループがそれぞれ誰なのか、そして、所有者、グループ、全員に対して読み書き可能か、読むだけなのかといった処理可能なことの限定ができるのである。これはマルチユーザOSでは必須の機能だ。だが、Mac OS Xはユーザの切り替わりが主体だからと言い切っていいかどうかは見妙だが、アクセス権変更はできるものの、所有者やグループが誰かということは変更できない。実質的に、最初から自分に権限のあるファイルやフォルダを、他のユーザから見えるようにしたり、あるいは見えなくするという、自分ものもの管理しかできないに等しいのである。もっとも、これはFinderでの話で、Terminalで入ってコマンドを入れて…という世界ではなんでもできてしまう。 一方、Mac OS X Serverでは、複数のユーザが同時に使う環境で、その中でのユーザを管理しなければならない。従って、管理者としてそうしたファイルやフォルダのアクセス権の設定を変更しないといけないわけだが、その機能は、Mac OS X ServerのFinderには用意されていない。Mac OS X Serverでのこうしたサーバらしい管理作業は、実際には、Server Adminというアプリケーションを使って行うのである。このServer Adminは、Mac OS X Serverにはもちろん標準で組み込まれているが、別のMac OS X 10.0が稼働しているマシンでもインストールして利用できる。つまり、管理はネットワーク内の別のマシンからでも行えるのだ。このあたりはAppleShare IPでおなじみと言えばいいだろうか。ちなみに、Server Adminは、サーバマシンから使ってもログインは必要となり、管理者のアカウントとパスワードの入力は必要である。ただし、ブックマークが可能なことや、キーチェーンとの組み合わせ、パスワードなどは覚えてくれるので、きちんと設定しておけば、ログインの煩わしさはあまりない。もちろん、その場合にはマシンの管理はちょっとまじめに必要になることは言うまでもないことだ。 (続く) |