タイトルセミナーレポート》JOLFとMOSAが、WebObjectsをフィーチャーしたセミナーを開催(2)カテゴリーWebObjects, イベント
作成日2001/8/3 17:16:29作成者新居雅行
〈セッション3―「こんなはずではなかった……」〉
単独講師によるものとしては最後になるセッション3では、丸善株式会社でデータベースシステムなどの設計・構築・運用に携わってきた井上利幸氏による「こんなはずでは! 必ず失敗する開発・運用のいろいろ」と題した講演が行なわれた。いわゆる技術的な開発ノウハウではなく、システムの導入や運用に際して起こりがちな事象について取り上げ、現場に携わる開発者への注意を喚起するものとなった。
氏は、会計処理などを行なうシステムを「勘定系」、現在Webなどで多く用いられているシステムを「情報系」と定義し、利用者が不特定多数に渡り、かつ情報の入力や提供の方法が複雑になる情報系システムの構築における問題を、実体験を交えながら解説。データベースに情報を登録する際、その形式や後に検索することを踏まえた場合の重み付けをどこまで考慮するのか、全角文字と半角文字というような表記そのものの揺らぎはどこまで許容するのか・システム側で対応させるのか、ユーザーに注意を促すのか、といった事例を紹介。データベースを用いるから大丈夫だという過信は禁物であると語った。
開発にかかるコストについて、その費用の算出基準と、システム導入によって得られる実際の効果を正しく把握することは必須であると語り、現在のコスト換算の矛盾や不合理さを示した。設計時に仕様書を作ることや、完全自動化システム構築の是非、あまりに「柔軟」で個々の例外状況にも対応できる「かゆいところに手が届く」システムの構築に孕む問題点、書籍が多い開発ツールこそが優れているのか、といった、何となく現実のなかで「常識」とされてしまっていることへの反証を行ない、開発者もシステム設計を依頼するユーザーも、ともに学ぶべきことがまだまだ多いことを、ユーモラスに、しかし切実なものとして述べた。最近はExcelのデータ分析機能やファイルメーカーProのデータ参照機能が充実していることをデモを交えて示し、無駄なシステム設計を行なう前に、こうしたツールをもっと活用すべきだという言葉には説得力が感じられた。
また、システム設計においては、その目標を明確にすることや参加する面子の構成、進行管理の責任問題などが極めて重要であると説き、またユーザーが使うものを作るのだから、誰のためにどんな機能を設けるのかという観点から、見た目だけではなく、設計におけるデザインへの配慮も重要であると述べた。

〈Q&Aセッション〉
最後には、株式会社カシス取締役エンバンジェリストの高木利弘氏をモデレータに、講師陣全員が壇上にそろってのQ&Aセッションが設けられた。あらかじめ参加者から寄せられた質問に対して、各講師が回答するというスタイルで進められ、オラクルやMicrosoft Accessとの連係といった話題から、WebObjectsによる帳表出力アプリケーションの開発は可能なのか、といった非常に具体的な事例を元にした質疑応答が行なわれた。
このなかで、アップルの鷲滝氏から、WebObjects5のWindows版とMac OS X版では、同梱される開発環境において、バージョン管理など一部の機能がMac OS X版のほうが優れいてるというコメントが出たり、同じくアップルの野村氏から、WebObjectsにはEOFという優れた機能があり、決してJava2EEに対応していないからといってWebアプリケーションサーバーとして機能的に不足があるわけではないといったコメントが出たりした。また、井上氏は、ファイルメーカーProのインスタントWeb公開機能は便利だがセキュリティ面では問題が多いと指摘し、不特定多数を相手に公開するWebアプリケーションシステムの設計には、データベースの選択をはじめ十分な配慮が必要であると語るなど、より実際的なコメントもなされた。

午前11時ほどから始まって、午後7時に終わるという非常に長丁場のセミナーだったが、その内容は概ね充実していたと言えるだろう。アップルによるLinux環境での動作実証や井上氏の講演など、単に技術や機能の解説ではない、システムの運用や日頃の業務に関わる部分へのコミットが多く見られたことは、いわゆる製品主体のセミナーでは得られない貴重なものだったと言えるのではないだろうか。
アップル自身が、明確な目的意識を持ってWebObjectsやMac OS X Server環境の普及や理解の促進に望んでいることもより鮮明になり、今後の展開に期待を抱かせる内容だったとも言える。これからまだまだ伸びていくとされるWebアプリケーション市場において、どのような変化が起こっていくのか。その動向に注目していく必要があるだろう。
[森 恒三]
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