タイトルセミナーレポート2001/9/21》Mac OS Xによって、DTP環境は変わるのかカテゴリーMac OS X, グラフィックスアプリケーション, イベント
作成日2001/9/22 16:56:16作成者新居雅行
2001年9月21日、千葉・幕張メッセで開催中のWorld PC Expoで行なわれている「WORLD PC FORUM 2001」で、「Mac OS Xが拓く、新しいDTPワークフロー」と題したセッションが行なわれた。前半はインクナブラ代表の上高地仁氏による「Mac OS XでDTPはどう変わる?」、後半はアップルコンピュータ株式会社マーケティング本部クリエイティブマーケット課長・永坂良太氏と、同プロダクトマーケティング課長・櫻場浩氏による「Mac OS Xが切り拓く次世代DTPの世界」というもの。会場には、印刷・出版・デザイン関係者を中心に、100人近くが訪れた。

上高地氏は、従来のMac OSにおけるDTP環境は、画面表示にQuickDrawを用い、印刷処理にPostScriptを用いるというダブルスタンダート状態にあったと指摘。Mac OS Xでは、画面描画にPDF技術をベースとしたQuartzを用いていることから、画面表示と印刷処理を共にPostScriptでハンドリングすることが可能になり、「画面表示と印刷結果が異なる」という従来生じていた問題が改善されると述べた。PDFをベースにしていることから、フォントの埋め込みにも対応でき、その出力環境も、プリンタフォントがなければ正しく出力できないといった、これまでの制約から解放されるとコメントした。
現在、PDFフォーマットは商業印刷分野における出力データ納品などに用いられるケースも増えており、今後ひとつのスタンダードになっていくという見方がある。従来のように特定のアプリケーションに縛られるのはおかしいという見方も出てきており、氏の論調の中心には、こうした状況があると思われる。Mac OS Xであれば、どのようなアプリケーションを使っていても、レイアウトを保持し、フォントを埋め込んだPDFを容易に生成でき、DTPアプリケーションを使わなくても高品位な出力データが作成できる。それが個人による出版=デスクトップ・パブリッシングを促進することになるだろうと氏は語る。
ただ、「PrintCenterが出力用PostScriptファイル/ビットマップファイルを生成する」といったことをはじめとするMac OS Xについての明らかな事実誤認、また現状ではMac OS X上で作成したPDFファイルが他のプラットフォームで正常に開けない事例が多発しているといった周辺事情に対する認識が欠落していると思しき部分が散見され、内容的に疑問を持たざるを得ない部分もあった。また、DTPソリューションという観点で見ると、PDF化する以前のデータ作成フローにおけるMac OS Xの影響については一切触れられておらず、片手落ちという印象は拭えない。
文書ファイルの一元化や管理の効率化、フォント環境なども含めた印刷出力環境への対応など、PDFフォーマットが今後より多用されていくことになるのは確かだろう。その意味において、氏が言うQuartz=PDFベースの恩恵は正しいかもしれない。

後半のアップルによる講演は、永坂氏が日本のDTP普及における問題点を挙げて、それに対してMac OS Xがどのような対応を行なっているのかを、櫻場氏がデモを交えながら回答する、というQ&Aのような構成で進められた。
アップル独自の調査では、ヨーロッパや米国の商業印刷分野におけるDTP普及率は90%に上るが、日本国内では40%ほどだという。この、日本においてDTPの普及を阻んでいる要因として、アップルは、

 1:日本語レイアウト機能が弱い
 2:フォントのコストが高い
 3:プリンタフォントによって制作における制限がある
 4:文字が足りない
 5:色校正の作業が困難
 6:インターネットへの展開が急務

という制作環境から出力・校正までの流れを踏まえた6点を挙げた。それらに対して、Mac OS Xでは、1:ATSUI、AAT(Apple Advanced Typography)、OpenTypeの採用、2〜3:OpenTypeによるダイナミックダウンロード、4:20000字形を実装する「アップルパブリッシンググリフセット」の実現、異体字への対応、5:ColorSyncとQuartzの連携、というかたちで、問題の解決を図っているという。
日本語レイアウトについては、フォント自体が備える字詰め情報をアプリケーション側で呼び出すことにより、より細かな文字組みのコントロールを可能にするということで、そのための技術としてATSUIやAATを挙げている。フォントのコストが高い点については、制作作業を行なう環境とプリンタなど出力用環境とで別個にフォントが必要であり、かつその価格が高いということへの回答として、OpenTypeによるプリンタフォントレス環境を謳い、大幅なコストダウンが可能であることを示した。
実装字形の数については、現在Mac OS Xが搭載している、およそ17000文字からさらに拡張を行ない、20000文字ほどにするという。これはアドビシステムズ社が用意している字形セット「Adobe Japan 1-4」や、Unicode、JISのほかに、これらの規格には含まれないが電算写植で用いられているものを加えた数として提示されている。JISのサポートについては、Mac OS X 10.1では昨年策定されたJIS X0213:2000をフルサポートすると発表し、実際に収録された字形(地名や人名など)を日本語入力プログラムを通じて画面上に表示してみせた。なお、この日本語入力プログラム「ことえり」も、大幅に変換効率やパフォーマンスを高めた「ことえり3」としてMac OS X 10.1に搭載されることが発表された(ただし、Unicode上でバリアントとして定義される字形については規格策定の問題もあり、まだ扱えない)。
補足として、アップルが用意した字形セットは、決してアップル独自のものではなく、アドビシステムズ社が今後発表する字形セットと完全互換を維持する点を強調していた。これは業界標準となるものへの対応を重視しているということであり、実装字形の拡張がMac OS X固有のもので共通性がないという誤解を解くためのものだと言える。
永坂/櫻場両氏のかけあいによる展開はわかりやすく、Mac OS Xが備える日本語環境についての説明もこなれていたと感じる。JIS X0213サポートやことえりの強化はここで初披露されたが、こうした情報公開も見逃せないところだろう。
ただ、ATSUIやAAT対応アプリケーションについては「将来出てくる予定」という歯切れの悪い部分は変わらず、自らが積極的に押し進めていこうという気迫は感じられなかったのが残念だ。また、実装字形の話では、情報交換における共通符号化体系としての文字コードとして論じるべき部分と、印刷して紙に定着させてしまう字形として論じるべき部分とが曖昧になっていたところもあった。
OSそのもの、というより実際にはフォントファイルに含まれる字詰め情報を用いることによって、よりしっかりした日本語文書のレイアウトが容易になる点は評価できるだろう。しかしながら、それを上回る精度で作業を行なう必要がある業務ユーザーにとっては、やはり専用アプリケーションの存在は不可欠であり、OSやフォントの機能だけで充足できるものではない。逆を言えば、OSそのものがそうまでしてレイアウト機能を備えることにどれほどの意味があるのか、ということであり、アップルの対応を疑問視する声もある。
今回のセッションは、ソリューショントラックという形で設けられていたが、Mac OS Xを中核としたソリューション展開が行なわれていない現状では、講演内容の多くがすでに報じられているものであったりして、少々苦しい部分も見受けられた。今後DTP関連製品が登場していくなかで、Mac OS Xが備える日本語関連機能がどこまで生かされ、効果を発揮することになるかがポイントとなるだろう。
[森 恒三(もり こうぞう)] 編集者・ライター。Mac専門誌の制作、Web雑誌の制作などを経て、現在フリーランスとして活動。月刊MACLIFE誌(エクシードプレス)にて展開中の雑誌内雑誌『apeX』編集長。
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