タイトルMDOnlineの最初から最後まで〜(5)コンテンツの設計カテゴリー業界動向
作成日2002/3/29 14:53:1作成者新居雅行
オンラインでの出版は、コンテンツの自由度が高くなることがあることを以前に説明した。もちろん、カラーでも値段は変わらないとか、あるいは動画もOKといった、内容を伝達する手段の違いもあるのだけど、むしろ目を付けたのはビジネス的な側面である。いままで5000人に売らないと成り立たなかったコンテンツが、500人でも成り立つし、もしかすると、50人でも成り立つ場合があるかもしれない。もちろん、従来の出版形態でも、自費出版というものはあったが、これは多くは自伝を記念に…といったものであって、ビジネスである側面は薄い。そうでなくて、少数の出版でもビジネスになると言うことを狙ったのである。もっとも、日経BP社や矢野経済研究所が発行していた1冊数万円〜数十万円の書籍といったものも昔からある。それと同じようなスケールのビジネスでもあるわけだ。世の中には参考になるモデルはいっぱいあるものだ。

Macintosh Java Report(MJR)はその意味ではまさにセグメントが極めて明確なニッチ市場をターゲットにしたものである。製品ポジションも明確だと、市場性が測定できる。だけど、ビジネスにするには、それなりのスケールが必要だ。もちろん、MJRのようなタイトルをいくつか作る…とも考えたけど、MJRも後半にさしかかり次のステップに行きたくなった。そこで考えたのが、Macプラットフォームの開発者向けコンテンツである。Macintosh Developers Journal、MacTechの日本語版がなくなってしまい、専門媒体がなくなってしまった。Mac専門誌にプログラミングの話題が掲載されることもあるけど、入門向けか趣味的なところが一般的であり、開発者にとっての必要な情報は限られる。そうした状況で、Mac OS X Serverの初期版が発売されての困惑があり、さらにその先のMac OS Xがどうなるということも極めて不透明になった。そこで、いずれはMac OS Xにフォーカスした開発やシステム情報を提供することにした、開発者向けという点を中心にした媒体の市場が見えてきたのである。これまでの経緯だと、Appleから系統立って情報は出てこないだろう。それを整理して解説するだけでも十分に媒体になると思った。また、いろいろな雑誌の人たちと仕事をする関係上、雑誌の人たちのMac OS Xに対する冷めた見方もあったので、Mac専門誌でのフォローも時間がかかると考えた。Mac OSがいいとかMac OS Xがどうこうという以前に、MDOnline出版時期の段階で、私の中では数年後はXに移行するならもはや受け入れるしかないと言うことを基本スタンスとして取り組んだというわけである。
ただ、大きな問題は、マックの開発という世界が広すぎることだ。むしろ、オンライン出版としては、MJRのようにもっと絞りそして単価を上げる方がいいということも一理あり、その点はまだ会社に部署があった時代なので上司とも議論を尽くした。
だが、MDOnlineの概略をまとめていくに従って、MJRとの大きな違いが分かってきた。MJRはコンテンツであるが、MDOnlineはメディアなのである。つまり、書籍と雑誌の違いがあるようなものだ。ニュースを届けるメディアであり、ノウハウやレビューなどもある。どこまで行けるか分からないけど、媒体を運営するということで、より存在感を強めることもできる。Mac FanやMacWIREに対抗しようと思ったわけではないが、共同戦線を張って、Mac専門媒体の中にMDOnlineもあるというところを狙ったわけである。
つまりは「編集長」になるということでもある。「情報メディア出版局」というちょっと怪し気なセクション名はMJRの時に考えたものであるが、それまでは「コンサルティング事業部」を名乗っていたけど、自分の肩書きは「情報メディア出版局 編集長」ということにした。自分で名乗ったものではあるが(笑)、悪い気はしないとはしゃいでしまった。他の媒体の編集長と同じく、企画や運営はしているが、違いとしては原稿を書いて営業までするところかもしれない(笑)。編集長と言えど、スタッフは自分ひとりなのだから。

メディアとコンテンツは対立するものではない。ただ、メディアというのはコンテンツを含んで「メディア」でなければならない。どこが違うかという点は実はいろいろあるのだけど、MDOnlineをやりながら気付いたことは、メディアというのはグルーブ感が必要であるということだ。あるネタでも、あの手この手で紹介し、ほめてみたりけなしてみたり、詳しく紹介したと思ったらからめ手を使う…単に情報を伝える以上に、そうしたノリとグルーブ感が必要なのである。また、それは独自性も要求される。パクリはすぐにばれる。
だが、一方で、MDOnlineは楽しみで読む人だけでなく、実用性も重視した。忙しい開発者が、ざっと見て必要な情報がアクセスできるというような、実利も追い求めてみた。そのあたりは、テキストの書き方や見出しの入れ方などに工夫が必要なのだが、ある意味、面白くする演出は極力控えるというのも、媒体のノリの一つとして組み入れてみたのである。ネタ的なことやメールニュースという側面からも、ありうる1つの形態であったかと思う。そのため、場合によって意図的に短くも書いている。
また、細かく説明することは、枝葉にこだわり徹底的に掘り下げるということを心掛けた。オンラインは文字数の制限はない世界である。雑誌だとページ数が決まっているけど、そういう制約がないのなら、あえて短くまとめる必要がないときにはじっくり書くということをやったわけだ。
いずれにしても、記事作成のテクニックは、知りうること、できることをありとあらゆるものを投下した。幸い、10年以上も前になるが雑誌の編集をしていたし、当時は専門的な記事から経営者インタビュー、さらにはケーススタディから芸能人取材まで、なんでもやる必要があるセクションだった。けっこう大変だったけど、2年半の間にけっこういろいろなことを勉強できたことが、役に立ったのである。その後はライター業中心だったから、使わなかった技術も多かったのだが、MDOnlineが出版できたのは、まさに昔取った杵柄そのままなのである。

内容的には、最初の頃から最近までは、他のニュースメディアに配信をしていることを考慮して、配信可能な形で、配信先でもそれなりに違和感ないものという記事を入れる必要があった。ただ、ネタ的には正直いってひとりでまかなう範囲を軽く超えていたのも事実だ。がんばって勉強するにしても限度はある。そのため、外部執筆者をなるべく増やしたかったのだけど、予算がとれないなどもあって、いろいろご迷惑をおかけしたということもある。だが、あの手この手をつくしたのは確かだ。最近ではPDFと記事が同時に執筆できる仕組みを作ったりもしたが、やはり元はライターだけに内容についてはこだわりたかった。
コンテンツとして成功したかどうかは、自分では判断しづらいものだ。もちろん、ベストを尽くしたのはもちろんだけど、カバーしきれなかった範囲ももちろんある。だが、評価していただく声もよくいただくので、それなりのものではあったのではないかとも思っている。話にならないコンテンツで廃刊したのなら、全く話にならないのだけど、それなりに惜しまれる内容だったことは自分としてはある意味での満足感でもある。だが、それだけに惜しいのではあるが。

∽∽∽∽∽∽∽この項、以上∽∽∽∽∽∽∽[新居雅行]∽∽∽∽∽∽∽
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