タイトルMDOnlineの最初から最後まで〜(1)MJRは成功か失敗か?カテゴリー業界動向
作成日2002/3/26 17:26:32作成者新居雅行
MDOnlineは、発行からちょうど2年半でクローズとなってしまう。出版界の悪習である「休刊」という表現をあえて避けて「廃刊」という表現を使いたい。2002年3月で廃刊するMDOnlineを振り返る記事を最後に向かってお届けしたい。出版界の人にとっては、オンライン出版というものがどんなものかという興味もあるかもしれないが、オンラインサービスはある意味誰でも気軽にはじめることができるだけに、他の業種の方も視線を向けているだろう。また、Macintoshというプラットフォームが久々に大きな転換をした時期に、どっぷりとMacに浸ってニューズレターを発行できたことは、ある意味では貴重な体験をさせてもらった。なぜ、MDOnlineは生まれて、そしてなぜ潰れたのか、その答えを最後に公開したい。ネタバラシというとオーバーだが、可能な範囲で実態をお届けしたいと考える。

そもそもオンライン出版にいたるまでの話も長くなるのだが、簡単にいえば、それまでに雑誌や書籍でそれなりにかせいできたのが、98年に入った頃からどうもうまく動かなくなってきたことに起因する。このままではいけないと考えた結果、オンラインで出版物を作り、自分で売るということだった。書籍だと印刷して在庫をかかえないといけないが、オンラインだと基本的には初期投資だけでそうした費用は後からはかからなくなる。たとえば、書籍のライターとしては当時は10%の印税率で書いていたのだが、3000円の書籍が5000部だと、印税は150万となる。これに匹敵する収入を得るには、単純には、3000円で売れば500部でいいし、5000円で売れば、300部でいい。つまり、今までは5000部の市場がないと出版ができなかったのが、1桁低い市場でもビジネスになるのではないかと考えた。筆者としても、基本的には1冊作るのと同じことをするでもいいはずだし、読者の方にとっても、ことさら高くなるわけではない。もっとも、本という紙の束ではなくオンラインコンテンツであるということはあるのだけど、情報に価値を見い出してもらえれば、なんとか行けるかと思った。
その結果、今までネタ的に没になっているようないろいろな内容で、新たに出版ができると考えた。もちろん、世の中は、Windows 98騒ぎで浮かれていて、初心者本全盛ではあったけど、昔からどちらかというとこってりとした本を得意としてきただけに、そうした書籍の行き場がなくなっていたのも事実だ。また、筆者の周辺でも、コアなネタがあるのに本にならないとか、あってもたいした収益にならないという事態が発生していた。特に技術的に非常にしぼられた内容は、高いニーズがあるにもかかわらず、書籍化は年々難しくなってきていた。できるシリーズや超図解とかいったテイストの書籍の台頭で、数千部しか売れない書籍はもはや商品としては価値がなくなり、少なくとも1万部といった基準になっていていたのである。そこで、つまりは数百部でも収益が出るモデルを作り、紙の出版ではない新たな場を求めたというわけである。もちろん「出版の世界を大きく変えてやるぞ」という気があったのも事実だ。

幸か不幸か、98年のゴールデンウィークの頃、いっさいの仕事の発注がなくなった。今まで、バックオーダーをかかえてひーひー言っていたわけだが、正直青くなったのは事実だ。だけど、ちょうどいいので、ちょっと遊びをさせてもらっていたが、こういうことが気楽にできるのが会社員のいいところでもある(もちろん、そういう立場にいないといけないけど)。そこで、サーバ開発のことを少しまじめに勉強をしたり、今思うと怪し気な(笑)BBSシステムを作ってみたりとしたのである。
また、そこで、決心をした。オンラインの媒体を立ち上げてみようということだ。だが、幸い時間的余裕があったので、いろいろ研究することもできた。紙の代わりにオンラインというのは基本コンセプトだが、折しも、メールマガジンブームであった。メールマガジンは単にテキストが送られてくるだけでなく、そこに日本語が踊っているだけで、独特の存在感や個性を演出できる。この手法はいただきだと思った。
一方で大問題なのは、お金をいただくにはどうするかである。そこでライターを引退するのなら(笑)、Webサイトで単に公開すればいいのだが、そういうわけにはいかない。お金を集めるということ、そして、無料でいくらでも見れるインターネットでの差別化などさまざまな要因を必死に検討した結果…「とにかく金を取ってみてどれくらいいくか見て見よう」ということになった。まあ、大雑把な結論である。お金を取る手段も当時はそれほどなかったため、申し込み後に郵便振替用紙を郵送して払ってもらうという方法を取った。いわば、「読者性善説」でやってみた。
そして、問題はネタである。そこであたためていた「MacでJava」ということでやってみることにした。推定市場は数百人程度、しかも、200〜500とにらんでいた。あわよくば1000という話もあったけど、もはやMacプラットフォームは衰退期に入っていたので楽観視はできない。だけど、書籍が存在しないで、コアな情報で、しかもインターネット上に有名なページなどもなく情報が大きく不足する領域である。もちろん、執筆時にすべてを知っていたわけではなく、調査しながら1年に渡って執筆するという方法をとった。1か月に1章である。そして、基本的には1週間に1回のメールで関連ニュースを流すというものだった。これくらいだと、他の仕事をある程度はしながらも執筆ができる。そうこうしながらも、書籍の仕事や調査・コンサルティングの仕事は入っていたので、それらで稼ぎながらの実験だったのである。

そうして98年10月より発行した「Macintosh Java Report」であるが、MJRと略すのは、もちろん「MRJ」ソックリ(笑)を狙ったものだ。(MRJ=Macintosh Runtime for Java)ただ、私自身が間違えてしまうなど、ちょっと間抜けな状態もあったのだが、コアな市場にはそれなりに訴えた。MRJに関する展開もいろいろあるのだけど、MDOnlineにつながる話だから、これくらいにしたい。MJRはMDOnline出版後も販売を続けたが、3000円の価格をつけて、最終的に250程度の売り上げがあった。コンテンツ的には、書籍1冊分に相当する内容であったのだから、読者の方々にとっては本を買う感覚でいいはずだけど、紙の固まりは提供できていない。ただし、WebとPDFの両方を提供したのである。
また、「読者性善説」はことごとく棄却された(笑)。書籍を申し込むと振り込み用紙と本が届くという販売パターンがある。そうした某社で、最終的にお金を払わない率というのを密かに(笑)調査したところ、どうやら、数パーセントの低いくらいの数値らしい。だけど、MJRでは未払い率が20%近くなっていた。内容が良くない? という考えもあるけど、どうやら、紙の固まりというモノがないということも影響しているらしい。もちろん、ある時期でアカウントは削除したけども、MDOnlineはその教訓を生かして「読者性悪説」を採用し、お金先払いということにした。今となっては先払いにしないと取りっぱぐれるのは当たり前と思うかもしれないが、まだまだいくらか牧歌的な雰囲気が残っていたインターネットの時代で、こうした試行錯誤ができたことは、いい経験になったと思う。

‥‥‥‥‥‥‥この項、続く‥‥‥‥‥‥‥[新居雅行]‥‥‥‥‥‥‥
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