タイトルMDOnlineの最初から最後まで〜(4)オンラインで売るということカテゴリー業界動向
作成日2002/3/28 16:6:40作成者新居雅行
結局、最終的なMDOnlineの読者数は、購入していただいた方々が300強、MOSA会員が120程度で、430程度である。創刊当初に想定していた市場の1000という数値があり、その後に減少があることを考えれば、市場の半分ほどを獲得していることになる。2001年12月からは、一部の記事しか他の媒体に配信されていないことを考えれば、もっと伸びる余地はあったと思う。12月1月と好調な売り上げだったが、2002年2月の売り上げは落ち込んだ。なぜかオンラインの販売の世界でも「ニッパチ」〜つまり、2月と8月に売り上げが落ち込むという現象が見られるのは例年のことなので、その意味では気にすることはない。3月以降の上昇を呼び込むにはどうするか…などとちょうど考えていたところなのである。
だが、1000の売り上げを見込んでいるところでの半分ほどというのはやはりちょっと見込みに遠い。配信で減少して、400台というのならともかく、大口配信はなく400台というのはちょっと苦しい数字だ。続けているとどういう数字になったのかは興味あるところでもあるのだが、残念ながら答えは出せなかった。

MJRでは郵便振替用紙を同封したものの、けっこう払わない人が多く、それが何割という数字になったことは紹介した通りだが、やはり「お金を払わないとアカウントを発行しない」とするのが原則だという結論になった。
だけど、MDOnline創刊時にすでに、有償オンラインコンテンツが大きく成功した試しがなく、一般的な出版ではむしろ有償から無償に転換するということがメジャーであった。Time誌やMacWeek Onlineあたりを思い出していただきたい。読者より広告主からお金を集める方が効率が高いと言う結論が出ていた時期でもある。
もちろん、いろいろな分析は当時にすでにされていたが、大きな問題は、オンラインでお金を払うということが、一般的ではなかったことがある。まず、消費者心理として、安全なのかとか、あるいは信用できるのかといったごく基本的な感覚があるだろう。通信販売よりも怪し気なものとも思われるかもしれない。これについては、信じてもらうしかないし、多少とも書籍や雑誌などで名前を知ってもらっているあたりをうまく露出することでカバーしようとした。
それでも、支払いという作業が大変に面倒であると言う点は、いまだに大きくは改善されていない。いろいろなページに移動しながら、必要な情報を入力するなどして、やっと支払いが完了する。お店で店員さんにクレジットカードを渡すのに匹敵する手軽さでショッピングができるということはインターネットではなかなか実現がされていない。いろんな操作が絡むほど、セキュリティが大丈夫かという感覚も生まれるだろうし、失敗をしたとかでうまく購買が処理されないこともある。
さらに、オンラインのさまざまな手段では、手数料が一般的には高い。店鋪でのクレジットカードの決済では、手数料は数%だと聞くが、オンラインでは10数%が一般的だ。最近になって、金額とは関係ないタイプなどが出てきてはいるけど、いろいろ制約は大きい。たとえば、完全にCGI呼び出しなどで決済からアカウント発行までを自動化できるところとなると、どこでもいいというわけではないのである。もちろん、決済サービスはそれなりに費用を投下してシステム構築をしているのは理解できるけども積極的に展開するという気が出ない感じと言えばいいだろうか。
実はオンライン決済以外に郵便振替を採用したが、初期の頃は、6割が郵便振替だった。最近は4割程度になっている。郵便振替口座だと、入金の通知が郵便でやってくるが、この通知は事実上タダでしてくれる。そして、経理の担当者はそこに書かれた「管理番号」を見て、あるWebページでその番号を入れると、アカウントが発行する仕組みを作った。お気に入りにそのアドレスを入れておけば、経理担当者はアカウント発行作業は1分とかからない。そのまま入金処理をしてもらえることになったので、非常に少ない手間で郵便振替入金は可能となった。正直なところ、手数料がない分、郵便振替の方がMDOnlineとしては収益性は高かった。ただ、読者の方々にとっては、わざわざ郵便局にどうしても行かないといけないという面倒があっただろうから、忘れてしまったりする人も多かったと思われる。

いずれにしても、支払いというハードルは高い。それは今でも高い。しかも、どうしてもクリアできなかったのが、「継続支払い」である。日経BPの雑誌だと、ある年に署名をしてはがきを送り返すと、以後は購読期限が切れると継続となる。もちろん、クレジットが永遠に有効でないなどの切れ目もあるだろうけど、継続できることでの更新率の向上は目に見えている。MDOnlineでも継続ができないかということを模索したがた駄目であった。クレジットの直接的な決済も、会社としては加入しないという決定がされていたので仕方ない。QQQシステムあたりでそうしたサービスがあれば良かったのだが、サービスはなかった。自動継続ができないという点での読者減はけっこう痛いのである。実は、更新率は当初は50%ほどだった。最近になって、60%台になってきている。もちろん、内容が気に食わないということもあったかもしれないが、たずねてみると「うっかりしていたらメールがこなくなった」という話をよく聞くほどであった。
一方で、コンテンツの「回し読み」の問題もあった。基本は1人に1アカウントであるけど、雑誌はたとえば部署で1冊買って、マガジンラックにおいておくということをしていたりするので、MDOnlineを回し読みすることにあまり罪悪感は感じてはくれてはもらえないのもあるだろう。だが、配信したメールを「返信」機能を使って社内に回されていたメールが、Fromに私のアドレスもあるので、私のところにもやってきたりもした。回し読みされている事実は明白なのである。ボリュームディスカウントなる看板もたててみたけど、問い合わせは一件もなかった。回し読みを想定しての市場規模が1000かどうかは非常に難しい。だが、回し読みを想定した場合には、定価をもっと上げるべきだっただろう。こうした点についてはやや楽観視していたというか、想定が甘かったのは事実だ。

MDOnlineの値段付けは、当然のごとくひどく悩んだ…。基準がないのである。MJRの5000円は、明白に採算を度外視したテストケース価格だ。それほど高くない値段にして支払いやすくしてみるけど、決して安くもない値段という心理的な価格付けをした。それでどうなのかというところを見たかったわけだ。だけど、MDOnlineは収益ビジネスにしたかった。たとえば、MACPOWERを年間購入すると、13600円ほどになる。記事分量を考えると、10000円は下回るべきだとも思ったが、内容的にはもっと上げておくべきだという意見もいただいた。相当悩んで、年間8000円を基準にした。後に収入が苦しくなったときに値上げも考えたが、大幅にはできないので、断念した。また、MOSAの年会費が10000円なので、MDOnlineはそれ以上の価格にはできない。結局は値上げができなかったのである。
ところで、ある月に支払いをいただいても、そのお金は、その後半年とか1年間の購読費となるわけであるから、8000円の収入があるというよりも、それが月々分割されて報酬となるような意味合いでお金の流れを考えないといけない。実際にお金が動くわけではないけど、キャッシュフロー的な考え方である。8000円で売り、各種決済等での手数料を引くと、これは感覚的な数値だが、1読者あたり月間500円という感じになる。だから、430人の読者がいれば、その月のフローでの売り上げは20万強というわけだ。こうした考えで売り上げを考えるべきである点は、残念ながら創刊後に気が付いた。コンテンツの内容は専門的なものであるから、1読者あたり月に500円というのはあまりにディスカウントし過ぎなのは事実だ。その意味でプライシングは完全に失敗している。仮に今現在値段を付けるとしたら、1読者あたり月に800〜1000円として、500くらいの読者数を目指すというのが最低目標となると思う。そうなると、定価は年間15000円くらいというところだろうか(もちろん、MOSA会費については何も考えないでということだ)。

‥‥‥‥‥‥‥この項、続く‥‥‥‥‥‥‥[新居雅行]‥‥‥‥‥‥‥
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