以下のテキストは、catv-internet@egroups.co.jpメーリングリストにおいて、荒木純夫さんが書かれたメッセージを、許可を得て新居が編集したものです。ネットワークではどうしてもやらないといけないケーブル処理について、示唆するところが多いと思います。(新居雅行:msyk@mac.com) |
Date: Sun, 28 May 2000 22:04:43 +0900
家庭内でケーブルを引き回す場合、気をつけなければいけないのは、「曲げ」です。まずCATV側の同軸ケーブルですが、曲げ半径の限界は220mmです。LAN側のツイストペアのケーブルは、ケーブルの直径の5倍ですから、だいたい25mmくらいと思ってください。これ以上きつく曲げると、いろいろと障害を起こします。もっとも顕著な障害は、思ったほど接続スピードが上がらないということです。また同軸ケーブルの場合、テレビ番組を見ていたとしたら、画質が悪くなるとかします。ケーブルモデムにつながっている同軸ケーブルやツイストペアケーブルに、無理な曲げが加わっていないでしょうか。またケーブルの途中で、キンクという小さな曲がりができて、無理がかかっていないでしょうか。実は私も、ケーブルモデムに接続しているツイストペアケーブルを、180度折り曲げるようにして接続しているということに、今日気がつきました。
同軸ケーブルもLANケーブルも、中を流れる電気は周波数の極めて高い交流です。CATV側は手元に資料がないので正確な数字はわかりませんが、だいたい80MHz以上、LAN側は、10Mbpsで10MHz、100Mbpsで31.25MHzの周波数で流れています。これだけ周波数が高いと、「ケーブルはつながっていれば良い。」ということでは済まされない、いろいろな問題が発生してきます。(なお、1Gbpsのギガビットイーサネットの帯域は62.5MHzです。)
交流は直流と異なり、ケーブルの中を流れるときに、インピーダンスという抵抗が生じます。インピーダンスも単位はオームで表します。同軸ケーブルは50オーム、ツイストペアケーブルは100オームというインピーダンスを持っています。これは直流の電気を流して抵抗値を測定するテスタでも値が出ますが、交流を流したときの値です。また「特性インピーダンス」というのは、いろいろ周波数を変えたり、信号の大きさを変えていったときのインピーダンスの値です。
さて、前述したように、ケーブルに無理な力をかけて曲げてしまうと、その曲げの部分でインピーダンスの値が変わってしまいます。すなわち、ケーブルのインピーダンスが連続的な変化ではなく、不整合点ができてしまいます。そうすると交流の特性として、インピーダンスの不整合点で信号が反射してしまいます。信号が反射すると何がまずいのか、イーサネットの動作原理を理解すればすぐわかります。
イーサネットは、ひとつの伝送経路を複数のコンピュータ等で共有しています。いずれかのコンピュータが通信をしようとして、ネットワークが使われているかどうか確認します。使われていたら伝送をやめ、しばらくしてから再びネットワークが使われているかどうか確認し、使われていなければ信号を伝送します。もしもインピーダンス不整合点で信号が反射したとしたら、だれも伝送経路を使っていないのに、いつまで経ってもだれがか伝送経路を使っていると認識されてしまいます。すなわち、通信速度がどんどん遅くなり、最悪の場合通信ができなくなってしまいます。
ケーブルの無理な曲げ以外に、インピーダンスの不整合点となるのがコネクタ部分です。ですから、コネクタの部分に無理な力がかかってはまずいですし、ほこりだらけの状態でケーブルを接続するのも良くありません。また自作でもジュラをケーブルに取り付ける場合、中の心線のよりは端から12mm以上ほぐしてはいけません。10Mbpsではそんなに影響が出ませんが、100Mbpsでは伝送距離が伸びなかったり、10Mbpsでしか接続できないといったトラブルが発生します。また心線はモジュラに取り付けるときのピンの配列が決まっています。これを守らないと、ちゃんとした性能は出ません。
外観はどんなに立派な家でも、土台ががたがただったらその家は使い物にならなくなってしまいます。ケーブルはネットワークの「土台」です。「つながっていれば良い」などというものではないのです。
(荒木純夫:araki@air.linkclub.or.jp)
Date: Sun, 28 May 2000 22:04:43 +0900
メーリングリストに、以下のようなメッセージがありました。
> ゆーじんです。
> なお、1Fから2Fへの屋内LAN配線も行い、今では
> 2Fの自室からも利用可能になっています。
> ケーブルは30mものを使用
> 各部屋の空調の穴を利用して屋外経由です。
屋外を経由して配線されているということですが、このケーブルは一般的なCategory 5のケーブルを使われているのでしょうか。そしてケーブルは露出しているのでしょうか。そうであれば、恐らく1年と持たないでしょう。現象として、何となく接続がうまくいかなくなり、最悪の場合接続できなくなります。一般的なケーブルの外被は、塩化ビニールかポリエチレンを使用しています。これらは屋外の使用を想定しておらず、直射日光、特に紫外線によって外被のプラスチックが分解してしまい、ぼろぼろになってしまいます。また塩化ビニールの場合、可塑剤を使用して柔らかくしていますが、屋内配線でも3、4年で可塑剤が抜けてしまい、固くなってしまいます。これが加速されるのです。ですから、屋外配線の場合、ケーブルを覆うチューブを使用するか、耐候性のあるフッ素樹脂を外被に使用したケーブルを使用する必要があります。最悪の場合絶縁が効かなくなって、ショートする可能性もあります。
屋外配線でもうひとつ怖いのは、落雷です。最近電話専用には避雷器がでてきましたが、屋外をLAN配線するということはほとんどないので、ケーブルとハブの間に挟んで使用する避雷器を見たことがありません。あってもいいはずなので、ちょっと調べておきます。CATVの配線工事をすると、宅内配線の屋内への引き込みの直前に、安定器というものを取り付けたと思います。これは落雷による被害の防止をする役目もあります。投稿の内容からして落雷対策を考えていられないでしょうから、もしも落雷の直撃を食らうと、ネットワークに接続されているコンピュータすべてが、"Welldone"になってしまうでしょう。確率は低いですが、被害を受けたときのショックは大きいです。
以上、できれば屋外配線は避けて、屋内を引き回したほうが安全です。
話は落雷にそれますが、落雷の被害というのはとんでもないところからやって来ることがあります。2年前、我が家から5kmほど離れたところに落雷がありました。雷雨が去って2時間後、我が家のAVアンプの電源を入れました。そうしたら、スイッチを入れた瞬間「パツッ」という音がして、パワーアンプの半導体がぶっ飛んでしまいました。2時間前の落雷のエネルギーが電灯線を伝わって我が家まで到達し、電源コードからAVアンプの電源回路の電解コンデンサに落雷の電気エネルギが蓄えられ、スイッチを入れた瞬間その電気エネルギが一気に流れ、アンプを壊してしまったのでした。事前にわかっていれば、電源ケーブルをコンセントから引き抜き、プラグをショートしてエネルギを取り去れば良かったのでした。
(荒木純夫:araki@air.linkclub.or.jp)
Date: Mon, 29 May 2000 11:07:34 +0900
それから、ケーブルに無理な力をかけて使用していると、すぐには現象が出ません。だいたい3年から4年経ったところで急速におかしくなります。ケーブルが劣化して余裕がなくなり、それでインピーダンス不整合が顕在化するのですね。システムインテグレータや配線工事業者の間では、「ネットワークの寿命は4年」ということがだいたい言われているのですが、原因はこれです。施工ミスや、建物の構造上どうしても無理して敷設したケーブルが、4年経つと問題を起こし、「原因不明の接続障害」を引き起こします。よくあるのは、オフィスで柱に添わせてケーブルを直角に折り曲げるというやつですね。見栄えは良いのですが、最悪です。
私会社設立前、5年半ほど前まで慶應大学湘南藤沢キャンパスで職員としてシステム管理者を3年ほどやっていたのですが、ここですごい事例に遭遇しました。
1990年の開校以来3年少々を経過したころ、ある研究棟で突然通信ができなくなりました。ネットワークアナライザで調べると、パケットが飛び交って帯域を完全に塞いでいます。ご承知のようにイーサネットは利用率が60%を越えると使い物なりませんから、当然です。最初は途中のブリッジやリピータの故障かと考え、機器を交換しました。それでも直りません。そこで経路を改めて調べるためにその研究等へ行き、まず1階のEPSのドアを開けたら、長すぎてとぐろを巻いた10Base5のケーブルが目に飛び込み、さらに広がって邪魔になるものだから、ケーブルの途中をべきっとへし折って、広がらないようにビニールテープでぐるぐる巻きにしてありました。10Base5の許容曲げ半径は220mmですから、これでは完全にアウトです。ケーブルに穴を明けて接続するトランシーバも、インピーダンスの干渉を防ぐために2.5m間隔で取り付けなければいけないとなっているくらいなのにです。「だれだこんなことやったのは!!!」と言いながらビニールテープを切ったのですが、すでに折れ曲がりの癖がついています。一応通信はできるようになりましたが、スピードは上がりませんでした。半年後にネットワークを張り替えることになっていたので、それ以上はやりませんでしたが。
それから別の場所でも通信異常が発生し、調べてみると前述のトランシーバが30cm間隔で接続されていました。この工事業者はついに完成図書も提出せず、トラブルシューティングには本当に苦労しました。「私たちはプロです」と言い切ってい
る、コンピュータメーカ系の大手工事業者なのですが。
CATVではLANもせいぜい10Mbpsですからそんなに大きな問題になりませんが、もしもLANを100Mbps以上で接続する場合は、本当に注意が必要です。「100Mbps対応」というふれこみで施工されている日本国内のLAN配線工事のうち、まともに動くのは1割もないだろうといわれています。プロの工事業者でもその程度ですから、素人が配線を行う場合は、100Mbpsは最初から諦めたほうがいいかもしれません。
それから我が家でやった折れ曲がり防止対策を書いておきます。
ケーブルモデムのコネクタは一般的にうしろがわにありますから、壁に向かっています。しかし我が家の場合、接続する相手のパソコンは、モデムの全面、10mのケーブルの先に接続されています。したがってツイストペアケーブルは180度折れ曲がることになります。ただケーブルを接続しただけでは、ケーブルが完全に折れてしまいます。そこでケーブルの端から5cm以上のループができるようUの字にまるめ、モジュラプラグの根元でひもでしばってしまいます。そうすると折れ曲がることもなくなり、またケーブルの接続部に無理な力がかからず、断線するということも防げます。
(荒木純夫:araki@air.linkclub.or.jp)
Date: Mon, 29 May 2000 23:13:01 +0900
本格的に調べようとしたら、LANテスターが必要です。LANテスターと言っても、導通とワイヤのピンアサインがあっているかを調べる程度のものから、近端漏えい、遠端漏えい、減衰率等を自動測定するものまであります。本格的に調べるのでしたら後者ですが、安くても80万円します。しかも、レンタル品がほとんどありません。しかし、このテスタで配線を調べれば、確実です。
テスタはもちろんないでしょうが、最低限以下のことを確認してください。
配線するときに、やたら引っ張らなかったか。これによって中のよりが伸びてしまい、性能が出ない可能性があります。ただし10Mbpsではあまり影響はないでしょう。
垂直部分はちゃんと支持してあるか。特に2階の引き込み部分にストレスがかかっていないか。
ケーブルの近くを、電力線が通っていないか。特に平行している場合は要注意です。一般的に家庭内配線は2kVAほどですが、この場合13cmは離す必要があります。電力線をまたぐ場合は、必ず直行するようにしてください。
蛍光灯の灯具の近くを通っていないか。蛍光灯はノイズの発生源としてかなり強力です。13cmは離す必要があります。
30mのケーブルを、コネクタを使って途中でつないでいないか。コネクタというのは、実はインピーダンス不整合点でもあるのです。
ケーブルを結束線等できつく縛りすぎていないか。変形するほど縛ると、やはりインピーダンス不整合点となります。
もしも自分でケーブルにモジュラを取り付けた場合、圧着器で再度締めてみてください。
ワイヤのよりをほどきすぎていないか。前のメールで12mmと書きましたが、11mmとしてください。ただし、10Base-Tではそんなに影響はでないでしょう。
ワイヤのピン配列があっているか。ワイヤのカラーが、ケーブルを左にして、コネクタに引っかける爪のないほうから見て以下の通りになっているか、確認してください。気をつけなければいけないのは、4-5のペアの外側を3-6のペアがまたいでいるこ
とです。
(1) 白/橙
(2) 橙
(3) 白/緑
(4) 青
(5) 白/青
(6) 緑
(7) 白/茶
(8) 茶
または
(1) 白/緑
(2) 緑
(3) 白/橙
(4) 青
(5) 白/青
(6) 橙
(7) 白/茶
(8) 茶
ちなみに、10/100Base-Tでは、1-2と3-6のワイヤを使います。これを知っていれば、クロスケーブルの自作もできますね。ところで、構成の中でWin2000とスイッチングハブの間がクロスケーブルになっていますが、スイッチングハブにはアップリンク用のクロスポートはついていないのでしょうか?クロスポートがついていないスイッチングハブというのは、ほとんど見かけないもので。
これだけチェック項目を並べてみると(本当はまだあります)、ケーブルってただつなげばよいという代物ではないことを、良くわかっていただけると思います。
(荒木純夫:araki@air.linkclub.or.jp)